そんなイームズ夫妻。「天才は多才」という言葉どおり、いろんな方面での活躍があります。
その1つが映像作家としての顔。
教育映像としても度々紹介される「パワーズ・オブ・テン(Powers of Ten)」が代表作です。
この「パワーズ・オブ・テン」という映像は9分という短いショートフィルム。
「パイロット版(モノクロ)」「カラー版」2つのバージョンがあるのですが、よく取り上げられるのは「カラー版」の方になります。
以下が、その映像。
この動画へのリンク:
https://youtu.be/0fKBhvDjuy0
シンプルでメッセージ性がないぶん、いろんな感想を抱くイマジネーションにあふれる映像だと思うのですが・・・。
おそらく解説が無いと、一般の方にはなんのことだかよく分からないただの映像だと思います。
これは、「モノの大きさ」を可視化した映像になります。
「スケール」という概念を「距離」で表現した映像なのです。
今でこそ CG 技術の発展により同じようなものを短期間で簡単に作れる人も多いと思うのですが、これを数十年前に思いつき実行してしまうというのは、かなり凄いですよね。当時にどんなセンセーションを起こしたかは想像できます。というか、繋ぎ部分が全く分からないので、どういう作り方したんだろうって思いますね。もうファンタジーの世界です。
伝え聞くところによると、IBM が資金や技術面で投資したと聞くので、ちょっと IBM が好きになりました。
タイトルの「パワー」の部分ですが、これは日本人になじみ深い「力(ちから)」の英語の意味では無く、算術における乗算のことです。
最初の映像に現れる正方形が 1メートル×1メートルの範囲。
そこからカメラが後方に10秒移動するのですが、その範囲は10メートル×10メートル。
次にも10秒かけて後方に移動し、100メートル×100メートルになる、という計算になっています。
これを繰り返すことで、スケール感を、自分の目で見る映像としてとらえるようになっています。
中間の宇宙全体を俯瞰している画面では、自分の小ささというか、存在感を見失いそうになるような感覚もあるのですが、同時に「これ今どれぐらいのスピードなんだろう?」と思わずにはいられない不思議な感覚。スケールが大きいので距離感や知覚なども既に失っているのですが計算上は高速に近いはずで、その脳が理解できない体験が未知の感覚だったり。
映像は後半からは、逆にミクロの世界まで入っていくのですが、それもまた自分の身体を構成する細胞のひとつひとつを自覚せずにはいられない不思議な感覚です。
日常から宇宙の果てへ、そして素粒子の世界へ。
9分という短時間で世界の端から端へと旅を行うわけですが、自分をとりまく世界が、自分の近くとどれぐらいかけ離れているのか、その差を認識するには充分すぎる内容。本当にこれがすごい昔に作られていたかと思うと不思議。
イームズが座った椅子から、何を見ていたのか。
そこから見ていたものは何だったのか。
そんなことを考えて楽しみながら、自分の哲学を構築していくのも、面白いですね。